暗い部屋
いったい何で、こんな夢を見たのだろうか。
ある真っ暗な部屋で、俺は目を覚ました。
そこには、暗い顔をした若い男女5人がいた。
俺を入れると、ちょうど3人ずつだ。
誰一人として顔は知らない。
夢の中にありがちだが、知らない人とも友人のように話せる。
しかも何の違和感もなく。
あれは、忘れてるだけで、現実では本当は友人なのだろうか。
とは言え、誰も口を開くことはなく、皆沈んでいるように見えた。
「何かあったの?」
最初に口を開いたのは、俺だった。
一番手前にいた男が応えてくれた。
「世界が終わるらしい」
「は?」と素っ頓狂な声をあげた俺は、全員の顔を見回してみる。
全員見覚えはないが、嘘をついているようには見えなかった。
答えてくれた男は続ける。
史上最大規模の雷が落ち、それと同時に火山が噴火、マグマが空から降ってくるというのだ。
時間は確認しなかったが、電気もついてない暗い部屋だ。
俺は「一度家に帰る」とそこにいる全員に告げ、暗い部屋を後にした。
やはり知らない道なのに、自分の家への帰路は分かっているようだ。
どこかに皆避難しているのだろうか、電気のついている家はどこにもない。
外に出た俺は、近くにある公園を通り過ぎようとした。
その公園の真ん中に、大きな木がある。
そして何らかの違和感。
目を凝らして分かったが、木の前にうずくまる”人”の姿があった。
この時、なぜか俺は「どうしても家に帰らなきゃいけない」と思っていて、その人に近づこうとしなかった。
だから、さっきの暗い部屋にいる仲間に電話したんだ。
さっき質問に答えてくれたやつ。
そいつに「目の前の公園にうずくまってる人がいるから、助けてやってほしい」って言うと、二つ返事で了承された。
そこから先の記憶はない。
ふと目が覚めると、またさっきと同じ状況だ。
いや、少し違う。
さっき一番近くにいて、俺の質問に答えてくれて、電話で俺の言ったことを聞いてくれた男の姿がない。
代わりに少し先の壁にうずくまる、みすぼらしい姿をしたおばさんがいた。
おばさんは、俺が目が覚めたことに気がつくと、ものすごい笑顔で近づいてきた。
「あなたが助けてくれたのね。嬉しい。」
なぜか、俺に身体をくっつけてくるおばさん。
俺は不快感を顕にした。
「え、俺何もしてないですよ。てゆうか、誰ですか。」
「あなたが友だちに言ってくれたから、私はここにいるのよ」
そう返してくるおばさんの顔は、本当に笑顔だ。
気持ちが悪いくらいに。
あの友人はどこにいったのだろう。
それを聞こうとした時、けたたましいサイレンが鳴った。
耳を塞ぎたくなるほどの、ものすごい音。
それはまるで”世界の終わり”のように感じた。
今まで暗い顔をして黙っていた、部屋にいる全員が叫び始める。
その瞬間、とてつもないとしか表現できない光が、窓の外の景色を白く、そして青く染めた。
ものすごい衝撃に、身体が弾け飛ぶ感覚がした。
すると、天井からぼたぼたと、何か髪の毛に落ちてきた。
触ってみると、やたらと熱い。
髪に触れ、少し熱が失われると、固まりだした。
何だ、これは?
周りを見回すと、部屋にいた全員は震えながらうずくまっている。
顔や、髪や、身体に、何かが張り付いて、固っている。
分厚いゴムのようにも感じた。
そんな状況なのに、おばさんは俺にくっついてきて、
「あなたが助けてくれたの。」と何度もつぶやいている。
おばさんの顔面にも何かが張り付いていて、異常に気持ち悪かったから突き飛ばす。
部屋を出ようと思った。
おそらくおばさんだろうけど、後ろから誰かが追ってくる気配を感じた。
そこからの記憶もない。
目を覚ますと、最初と同じメンバー、同じ状況だった。
部屋を見回しても、おばさんはいない。
夢…だったのか?
最初の時と同様、俺はなぜか、自分の家に向かわなければいけない気がしていた。
デジャブのように「一度家に帰る」と皆に告げ、俺は外に出た。
先ほどと同じ公園が見える。
その公園の真中に、大きな木がある。
そして、何らかの違和感。
目を凝らして分かったが、木の前にうずくまる”人”の姿があった。
なぜか、この時俺は、このうずくまる人を見なきゃいけない気がした。
だから近づいて、声をかける。
「大丈夫ですか?」
「会いたかったわ。」
嬉しそうなその声を聞きながら、その人を見る。
さっきより歪に笑う、あのみすぼらしい姿をしたおばさんが、目の前にいた。
「あなたが助けてくれたの。」
その言葉を最後に、夢は事切れた。